一昨日奈良市内で遊説中に予期せぬ蛮行事態により犠牲となられた安部元総理大臣に心より哀悼の誠を捧げます。本件についてTVを中心とした様々な報道に接して「筋違い」とのご批判を敢えて承知で思うところを申し述べさせていただきます。私は定年まで36年余の自衛官生活の90%余を陸上自衛隊の近接戦闘専門の第一線部隊で勤務し日夜国土国民を護るための教育訓練に専念し幸いにも災害派遣以外でその力を発揮する機会が無かったことが自衛隊の存在と日夜たゆまぬ訓練による抑止力として国の防衛の基盤になっていると退役20年後の今も自負しております。その上で今回の事案で若干の私見を申し上げさせて頂きます。その第一は「元海上自衛官」と言うテロップや見出しで「元」の字が小さく表示されているのは数少なく殆どが大文字表記された上に更には銃の分解等の訓練を受けた等?自衛隊の何たるかを詳しく理解できていない一般視聴者や読者に対し如何にも元自衛官だからなせる事案のようないわば誘導的表現がなされているように思えてなりません。もし彼が一般企業人で有れば「元○○会社で△△の業務に従事し3年で退職」なんて表現するでしょうか?又自作銃や爆発物作成等の教育を隊員にすることは絶対にあり得ないことで有りかつ新隊員で入隊時に初めて個人装備火器(小銃)を貸与するにあたり「この銃は国土国民を護るためだけに使用するものである。」ことを繰り返し言明し以後在隊間耳タコで継続していて他国軍隊の流出事案等の発生はないはずです。僅か3年間の任期を終了し一般社会に出て17年経過しているにも関わらず自衛隊の教育訓練に元凶があるやの表現は何かの意図ありと感じざるを得ずOBとして非常に悔しい思いで胸が詰まります。
第2に事案対処について自衛隊と警察ではその存在目的も行動規範など異なるので今回の警備を批判するような恐れ多い意図は全くありませんが国土に侵攻する敵に対する防衛目的での所謂戦闘訓練の他に同じ目的での基地や国家的重要警護物の警備或いはこれまで事例はありませんが任務の一つである治安事態等対処等第一線で30数年にわたり日夜訓練に従事したことから敵(一般的な表現とします。)と相対するにはまず敵の編制装備や戦術・戦法等の一般的事項の理解に始まりかつ当面する状況(敵の規模や目的・意図、相対する地域・場所等)の情報を出来る限り継続して入手しつつ敵の可能行動(予想される行動態様)をしっかり見積りそれぞれに対応案を練り準備を怠らずというのが原則でこれは一般的社会活動に於いても用語の違いはともかく極日常的に行われていると思われますが・・次にその事態対処の可能性が高まった場合、要点の守備や警備任務の場合を例に取れば敵に行動を起こされる前に可能性のある敵の行動に状況により幾通りもの警戒処置により僅かな兆候を見逃さない警戒態勢をとることが敵の先手行動を封殺し対処を容易にする唯一の方策であり、警戒にあたる者は一般的野外であれば風力・風向と自然の草木の動きの不自然さ、微かな物音、異臭等など・・市街地で有れば違和感のする人物や車両の存在や動き、建築物などの状況、開閉可能な窓や屋上等の人物等の存在等のあらゆる所轄違和感のある事については事前検討した予想兆候と睨み合わせ複数人により徹底継続注視(監視)をすると共に指揮系統を通じて速やかに報告通報することにより初めて事態発生時の迅速的確な対応行動を可能にすることが出来ると信じて勤務しておりました。TV画像の後付け視聴から今回の例で言うと安部元総理の演説を聴取する人は立ち止まり、聞かない人は歩き過ぎる状況の中で被疑者は時折小移動し視線を左右にちらつかせる行動を継続していて違和感を抱かざるを得ません。「予想もしない相手の行動」とは事前に描いた敵の可能行動や兆候の絵描きが不十分な場合には不意を突かれ我の主導権を無力にされることに尽きることは幾多の戦史が物語っております。監視・警戒に人員や機器を注力することは決して無駄にはならず、むしろ数名の警戒・監視要員や機器の存在がその何十、何百倍の事態発生後の対応勢力に優る力を発揮することは自明の理で有ります。自衛隊におかれましては最近の国外情勢や防衛環境から当然ながら以前にも増して精強化、近代化による抑止力向上の為に日夜精進頂いておりますことは我々OBの誇りで有ります。加えて現代ではITを駆使した目に見えない情報戦が事態の結果を左右することからも警戒・警備に関してこれまでの事案データの蓄積や事態内容予想態様やその大前提となる微細な兆候などの研究検討を重ね、人の目と頭脳に加えてAIにある程度判断を委ねることで迅速的確な対応行動が可能に近づく時代が来ることを期待してやみません。